Lipton28 blog

欲求不明です。

父のこと

父は90歳を超えた。

父方の祖母は畑の祖母だ。

小さい頃、祖母の家に行くとぶどう棚があった。

割と低くて、頭にかかる。

虫が落ちてきたらどうしよう…と気が気じゃなかった思い出がある。

その祖母は102歳まで生きた。

きっと、父もあと10年は生きるだろう。

 

父は昨年から「レビー小体型認知症」という診断名がついた。

パーキンソン病ともいうらしく、手が小刻みに震える。

レビー小体型認知症の特徴は、幻視幻聴だ。

よく夜中に起きていろんなことをしていたらしい。

客人が来ているので相手をしなければならないとか。

黒子が二人いて、暖房の温度設定をいじるので困るとか。

一番びっくりしたのはインドネシア人の女性が真冬に薄着で訪ねて来たので

風邪をひかないようにお風呂に入れてあげようと大騒ぎしたこと。

今は病院から出される投薬治療で落ち着いてはいる。

だけど、

日々すこしづつ、確実に老いていく。

父の何かが失われていく。

 

生まれてからいろいろなことを身に付けて

今ははいろんなことを失っていく。

 

風呂上がりにドライヤーを片手に

「これはどうやって使うんだ?」と聞く。

 

毎日確実に死が近づいている。

 

いろんなことを教えてくれた。

そんな父はもういない。

本をたくさん読んでいた。

そんな父はもういない。

 

喜びに満ちた日々はもう来ない。

寂しいわけじゃない。

哀しいわけじゃない。

そういうものだと思うだけだ。

 

一つづつ手に入れたものを、

また一つづつ手放していく。

 

昨日までできていたことが、

今日はできなくなる。

 

昨日まで知っていたことが、

今日は知らない。わからない。

 

老いるのというのはそういうことなのだ。