ピーターパンの冒険

 

ピーター・パンの冒険 (新潮文庫)

ピーター・パンの冒険 (新潮文庫)

 

 ウェンディもフック船長も出てこないピーターパンの話。

書店で表紙のかわいらしさについ手に取ってみた。

「みなさんに聞いてもらいたい・・・」児童文学特有の問いかけで始まる物語に、

一気に引き込まれる。

 

人間にも妖精にもなれないドッチツカズになってしまったピーターに、

なんだかわが身を重ね合わせて苦笑い。

私もいろんな意味で落第生だ。

 

遠い昔に読んだのでなんだかすっかり忘れていたけれど

この本の重要なエピソード。

それは、ピーターがお母さんに会いに行くというところ。

妖精舞踏会で笛を演奏したピーターは、妖精の女王に願いを叶えてあげるといわれる。

そこでピーターは願い事を2つ叶えてほしいという。

 

1つはお母さんに会いに行く事。

部屋の窓は空いていた。それはいつでもピーターが戻ってこれるように。

お母さんの寝顔は涙で濡れていた。

生まれて7日目でいなくなってしまったピーターを思い、毎晩泣きながら寝ている。

でもピーターはそっと部屋を出てくる。

何故か・・・。

お母さんの寝顔を見たら、笑顔が見たいと思わなかったのか。

お話してみたいと思わなかったのか。

お話を聞いてもらいたいと思わなかったのか。

 そこにはピーターならではの考えがある。

 

そして二つ目の願い事とは。

ピーターはなぜ願い事は2つといったのか。

賢いようで、愚かしい。

楽しいけれど哀しくて、寂しいけれど美しいお話。

 

 キスのエピソードもそう、切ない。

キスを上げるといわれたピーターは「ありがとう」といって両手を開く。

何かをもらえると思ったから。

赤ちゃんは周りの大人たちから、キスをしまくられて子どもになっていくのに

ピーターはキスが何かは知らない、あるいは忘れた。

かわいそうなピーター。

おばかさんのピーター。

 

 

ネバーランド [DVD]

ネバーランド [DVD]

 

 読了後、ジョニー・デップ主演の『ネバーランド』を観た。

何度も泣いてしまった。

このジョニー・デップはほんとにいい。

情熱を抑えて、すこしおびえたように周りを見回す瞳、その佇まいがとてもいい。

紳士なんだけど、どこか幼い子どものようだ。

あとがきにあった「・・・・家」の子どもたちのその後が

悲しくかった。

  

ピーター・パンとウェンディ (新潮文庫)

ピーター・パンとウェンディ (新潮文庫)

 

こちらはお馴染みのピーターパン。

フック船長も出てくる。

第17章 大人になったウェンディが出てくる。

 

 

ピーター・パンとウェンディ (福音館古典童話シリーズ)

ピーター・パンとウェンディ (福音館古典童話シリーズ)

 

 ふと、家の本棚を探してみたら出てきた。

石井桃子さん翻訳。

読み比べると、その時代の空気もなんとなく感じられる。

 

 

 

 

小説『わたしを離さないで』 ~救いはあるのか~

 

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)/カズオ・イシグロ著/土屋政雄訳

 

物語はキャシーという女性の一人語りで進んでいく。

さながらキャシーの日記を読んでいるようで、『アンネの日記』を連想させる。

彼女は31歳で「介護人」という職業に就いている。

さて、この介護人というのはどういう仕事なのだろうか。

 

生と性を深く描いている作品だか、不思議と愛情が感じられない。登場人物たちはまるで卵で産まれてきたかのように、それぞれが小さな子どものような感情を爆発させる。

思春期真っ只中のような少し幼いキャシーの語りが、母性を消し痛々しさや生々しさを薄めている。

 

物語の中の「命を生み出すシステム」がうまく想像出来ないと、なかなか物語に入り込めない。

妙にディテールがしつこいくらいに細かく書いてあるのに、さっぱり人物像が浮かんでこない理由だろうか。誰にも感情移入ができない。

 

まるで「むき出しの命」。

人間が生きる為に必要な分だけ作られた命。ほのかに人格があるように見える。個性的に。

しかしそれは、うわべだけのつくりものに映る。

名前を与えられ、文化や芸術、教養を身に着けたその「命」はなんだか寒々しくて哀しい。

 

「ほら、家畜にも人生を与えたら、人間と変わらないでしょ?」という活動をしていた人は、世間には受け入れられない。

なぜ?

なぜ受け入れられないのか。

その活動は賛同を得ずしぼんでいく。

 

 

人間が利用した後の「命」を看取るための介護人。

これは、とてもとても辛い仕事だ。

私なら到底務まらない。

 

読後もさざ波のように、疑問が押し寄せては引き返す。

さぁ、考える時間だよ、と。

 

 

命には必ず限りがある。

それは誰でも平等に。

生まれてきた命は必ず死ぬ。

それは誰でも知っていること。

運命は誰にでもあるだろう。

使命も誰にでもあるのかもしれない。ただ気づけるかどうかの違いで。

 

私たちが生きるという事は、なんらかの犠牲の上に成り立っていること。

目を背けて、見ないふりをしてはいけない。

 

私の命は誰かの、何かの犠牲の上に成り立っているという事実。

 

こんなに辛い物語なのに、最後にかすかな希望を感じるのは不思議だ。

それがきっと、カズオ・イシグロ氏の力強さなのだと思う。

 

読んで良かったと思える作品。